綺麗な綺麗な月の夜。
姫君は、涙を流す。
紅い、紅い、
それは、まるで。血のような――――
「お探しの物は、これでしょうか?」
キッドはその手に乗せた紅い涙を流す姫君に、そっと唇をおとした。
乾いた音が、幾度も地面を削る。
「待ちやがれ、このコソ泥が!」
暗闇の中、蹲るその薄い肩。
白いその羽根がはためく度に、衣擦れの音が路地に響く。
吐く息は白く、白く。何処までも続くような、暗闇に溶けてしまうようだった。
快斗、快斗、快斗・・・・・・っ!
間に合ってくれ、頼む
人一倍泣き虫な仔山羊、だから泣かない。
その、真白き。
「言われなくても知ってる。快斗には、俺しかいない」
嗚呼、もう本当に、この人は。
探偵という奴はどうして、こうやって人の弱さを見つけ出すのが得意なのだろう。
この闇の中に一緒に堕ちてくれるの?
それとも、ここから出してくれるとでも言うの?
その、あの人とは違う、けれどあたたかな手で。そのぬくもりで。
この、罪で穢れた、俺、を。
引っ張り上げるとでも言うのですか。
救い出してくれるとでも言うのですか。
嗚呼、だって俺は可愛らしいお姫様なんかじゃなく、悪い魔法使いだっていうのに。
あの人を失った瞬間から、俺の中で小さな子供が泣いている。
父さん、と。
ただ、それだけを繰り返して。
己が身体を両腕で力一杯抱きしめてみても、その子供は泣き止む事は無かった
この、石をあいつらの目の前で壊す。
ただ、それだけを願って、ずっと続けてきた。
復讐。
ただ、その二文字ダケ。
紅い涙を流す姫君が、粉々に、ただの硝子片になったとして。
それで、白き罪人は?
孤高の白こそが、硝子細工のように。
周りから少しづつ力を加えられ続けたダイヤモンドのように。跡形も無く、壊れるのではないだろうか――――
そして、物語は始まりを告げる。