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白い花吹雪の中、桜の木の幹に寄りかかる人影があった。 それは、現実のものとは思えぬ綺麗なモノで、舞い散る花弁すらその人物を飾るものでしかなく。 幻想的で触れてはいけないモノのような、絵画の中のような光景がそこにはあった。 しかし、その切り取られた世界を崩すのも、またその人物で。 その場に崩れ落ち、反動で舞い上げられた花弁の中。 白ばかりだと思われたその人物の、ふわり舞った白の中で見え隠れする大輪の紅い華。 怪盗キッドは、その純白の衣装に、鮮やかな紅の華を咲かせていた。 「父さん・・・やったよ。終わった、んだ・・・」 「目の前でパンドラを壊してやった時のあいつらの顔ってば・・・ハハッ、あははははははは!」 狂ったように、声を立てて笑う快斗には、もう現実が見えていなかった。 「ねぇ、父さん。俺、頑張ったよ。褒めてくれる?」 『ああ』 いつもと同じ、穏やかな微笑みで快斗に笑いかけてくれる父――――それは、仏壇の写真の中の盗一の姿と重なる。 パンドラと呼ばれる石を見つけた時には既に、快斗は死んだ父親の幻を6時間おきには見るようになっていた。 父を殺した組織とのやり取り、名探偵と謳われる工藤新一の復活によりさらに厳しくなった警備体制。 それによる闇の情報を買わなければいけない機会の増大、クラスメートや大切な人達を欺いているという罪悪感。 快斗の精神は、もはやギリギリであった。 今では、もうほとんどの時を父の幻に捕らわれている。 パンドラを破壊し、憤慨した奴らが発砲、そして警察に捕らわれるまでも、ずっと笑いを堪えてポーカーフェイスを保つのが大変であった。 大輪の紅い華を急所からは外れたといっても咲かせている怪盗に、警部や探偵たちは慌てていたというのに、変に冷静な自分が可笑しかった。 それでいて、とても興奮していた。 その場で怪盗キッドの幕引きをし、驚く者達にお構いなく、ただ快斗は父親がこれで喜んでくれるかもしれないという思いから、大声を上げてハシャギ回りたい気分ですらあった。 舞い落ちる花弁に、蹲るようにして眠る快斗。 その柔らかな猫っ毛を指で梳くと、ふわりふわりと揺れ動く様に、快斗の無邪気な笑顔を見た気がして泣きたくなった。 果たして、本当に自分達は正しかったのだろうか。 この、白く綺麗な罪人を執拗に追い詰めた結果がこれだ。 嗚呼、嘆かせて下さい。 この世に正しい正義などあるのか、と。 「今まで、大変だったな。快斗」 「ゆっくりと、おやすみ」 快斗は、自分を包む力強い体温に安心しきった微笑を浮かべている。父のものだとばかり思い込んで。 何一つ怯える必要の無い世界の中で、現怪盗KID――――黒羽快斗は、安らかに息を引き取った。 それは、とても幸せな世界 で 。 <END> |