「綺麗なお嬢さん、こんにちは」 そう言って、マジシャン志望の少年は、蘭に一輪の花を差し出した。


















新一と蘭は付き合うようになったらしい。

ちらりほらり、とそんな噂を聞く。

でも、まぁ、可愛い女の子には、とりあえず挨拶するのが筋ってもんであって・・・。

ナンパとは言わないが、多少ちょっかいを出してしまうものだ。


「蘭ちゃんかぁ〜、やっぱ可愛い子の名前も可愛いんだな」


にこっと微笑む快斗に、いつも傍に居る男はそんな言葉を吐かないものだから、思わず赤くなってしまう。

似たような顔の目の前の男の笑顔に、これが新一だったらなぁと思う蘭は、それでも新一がいいんだなぁとそんな自分に苦笑した。


「何こいつにちょっかい出してんだ、てめぇ」


ゲッ、と思った時には、もう遅い。

そこにはかの有名な、高校生探偵がいた。

















気づいたときには、どっかの空き部屋。

ええと、俺、もしかしなくてもこれからシメられる?


「さて、何か言い訳でもあるか?黒羽快斗」


名前は、バッチリワレテマスの事ヨ。

ああ、俺、生きてここから出れるのだろうか。

ん?と、余所行き用の笑顔で迫ってくる新一からは、某テーマソングがおどろおどろしくかかっていそうだ。

わぁん、その笑顔がむしろ怖いです、新一さん!


新一が手を伸ばしてきた。それは、快斗が逃れなれないよう、添えられた。

頭上に影がかかる。

ん?と、思った。待てマテマテ。これでは、まるで。


「ちょ、ちょっと待ってよ、迷探偵」


音に違和感を感じた新一は、ギロリと快斗を睨む。


「おい。今『名』の発音がおかしくなかったか?」

「そ、そんな事ないよ〜」


あせった快斗はパタパタを顔の前で両手を振った。

ふ〜ん、と納得いかない表情をしつつも追求を止めてくれた新一に、快斗はほっと胸を撫で下ろす。

つぅか、・・・むしろこの状況に納得いかねーのは俺の方だろ!?


「あ、あの?新一さん?」

「あ?何だ黒羽」

「これ、これ何?」


そう言って、快斗は己の顔の傍にある腕を指差した。


「何って・・・俺の腕だが」


そうじゃなくってぇ〜〜〜!!!

ガクッと項垂れる快斗の顎をグイッと引き上げて己の方を向かせる。

その碧眼が、コワイ。

これは、マズイ事になっちゃったかな〜?

快斗は心の中で、そんなどこか呑気な台詞を発しながらも、心臓は早鐘を打っていた。

ツツ・・・っと、額から汗が伝う。

それを見て、目の前のこの男は首を傾げてこんな台詞をのたまってくれやがった。


「どうした?」


それは貴方様の所為ですからぁあぁああ!!!!

そんな快斗のツッコミにも何も気にした風も見せず、(まぁ俺は言葉に出したわけではないので当然だが)新一は「ああ、そうか・・・」なんて、何かを納得したように一つ頷くと、反転して何処かへ歩いていく。

(た、助かったぁあ〜)

安堵の息を大きく吐きながら、快斗は壁伝いにずるずるとその場へ座り込んだ。


「お前、暑かったんだろ?」

新一は、さも、俺は名探偵だからな、お前の考えてる事なんてわかってるんだぜとでもいうように、空調をお止めになった。


ヒィイイイイイッ!!!!!

なにコイツ、なにコイツ、なにコイツ!!!!

俺だってホラ、怪盗キッド様だし?マジシャンとしてもやっぱ女性にはジェントルマンに接するから気障な台詞も吐くけども。

こいつは違う。

天然だ。

しかも、こいつの推理能力は、事件でなければ発揮されないらしい。

つーか、俺にとっては今日の今この時が、マジで事件中の事件なんですけどぉ〜〜〜!


「で・・・だ。お前、蘭に手を出してタダで済むと思ってるのか?」


ああ、良かった。これこそが普通の、本彼からの間男への会話だ。

ようやく成り立ってくれた会話に、じーん・・・と感動する快斗であったが、何故こんな事で感動しなくてはならないのか。


「それで?どうすんの?」


ハッと鼻で笑ってやった快斗に、新一は、にやり、とその碧眼を光らせた。

そして。


「〜〜〜〜〜〜ッ!!?????」


バッと、己の口を覆う。

震える指先を、目の前の男へ、この迷探偵!と罵声を浴びせつつ向けた。

「な、何しやがるんだよ!?」

「何って・・・お前、蘭に手を出しただろ?その制裁、だ」


「・・・・ハァ?」

ちょっとマテ。俺は一体何と会話しているのだろうか。天然気障迷探偵星人とか!?


と、その時、バタバタと駆けて来る音と共に、「新一〜?」という声が聞こえてきた。

新一は、ふっと身体を離すと、さっさと快斗の服を整え、扉の鍵を開けた。


「あぁ?どうした、蘭」

「あ、こんな所にいたの?新一ってば」


その時、蘭が女神に見えた。

神々しくて、涙が出ちゃう。


こんな時には、いつも信じていない神様だが、神様ありがとう!という気持ちになった。

ゴメンネ、これからは信じるから!!


そんな快斗の胸中を知ってか知らずか、扉際で会話する新一と蘭は、いかにも高校生カップルらしく微笑ましい。

気障に扉に寄りかかった新一は、どこからどう見ても、カッチョマンな高校生探偵だ。

先程までの変態な迷探偵には見えない。


「じゃあね、快斗君」


話が終わったのか、蘭ちゃんが愛くるしい微笑みを向けてくる。

ああ、これだよ。これ。やっぱ女の子は可愛いなぁ〜v

快斗の方を見る、新一の視線に気づかないふりをしながら、デレデレと笑いながら手を振った。

この様子だと、このまま何事もなく去っていくようで、快斗は心の中で激しく激しく安堵した。

新一は蘭の肩に手を置いて、扉に手をかけた。

そしてそのままさっさと行けばいいというのに、何故かこっちを振り向くと。


「またな、快斗」


にやり、と人を射殺しそうな碧眼を向けてそう去り際の台詞を置き土産にした後。新一は蘭の腰に手を回し、歩を進めていく。


「あれ?新一、いつ快斗君と仲良くなったの?」

「ああ、ついさっきな」


遠くから、二人分の足音と、二人のそんな会話が聞こえてくる。


















快斗は視界がおかしい事に気づいた。

椅子が目の前にある。

あの、一言で、その場にへたり込んでしまっていたのだった。

所謂、腰が抜けた、というやつである。

何でこの俺が腰なんか抜かさなきゃなんねーんだよ!と、拳を握り、泣き出したい気分に浸る。

今夜は夕日に向かって叫ぼう。

神様のばっかやろーーー!やっぱ信じるもんかぁ〜〜〜っ!!!


















END