鳥になりたいな。








この青い空に、いつまでも囚われていたい。




























「何やってんのー?タイチョー」

そのピンク色は、小首を傾げて此方を見上げてくる。

ほぼ同じような身長だというのに、何故向こうが見上げている印象があるのだろうか。

きっとあいつは無意識の内に人から愛される仕草を身に着けているに違いない。








「タイチョーってば〜」






いや、この小悪魔は無意識なんかじゃない。絶対意識してやっている。

きっと今この部屋に居るのだって、銀樹(かねしげ)を今日も今日とてからかいに来たのだろう。








「また仕事?こんなん放っといて、外行こうよ!」

「煩い、邪魔だ!お前はいつもいつも俺をからかって何がしたいんだ!」

思わず怒鳴ってしまって、しまった、と思った時にはもう遅い。

鎖白の方を見遣ると、その顔を見てしまった。

笑って、いるのに。

どこか。

泣いているかのような。

そんな、笑顔。






そんな顔をさせたかったわけじゃない。ああ、そもそもお前が悪いんじゃないかと思いを巡らせている間に、袖をグイッと引っ張られた。













まだ、肌寒い外の空気。

澄んだ景色に、二人の駆ける足音だけが響く。ただ、それだけ。

かしましい奴が黙ったままなので、調子が狂って仕方なかった。



「ちょ、待て!どこに行くつもりだ!?」

「それはついてからのお楽しみ〜」



声は明るかったが、それは精一杯の哀しい強がりに聞こえるのは俺の気のせいだろうか。

景色がどんどんと通り過ぎていく。

鎖白に袖を引っ張られたままだったそれは、些か伸びてしまったように見える。




















其処は、とりわけ景色の良い所だった。

この開け放たれた景色といい、丘の上、だろうか?

緩やかに吹く風は、木々を揺らし、桜を舞い上げる。

そして一面の、青。蒼。藍。

そこに広がるは、空。






「ここの空がね、銀樹の瞳に似てるの」

「そうか?」

別段、そうは思わない。だが、いつも以上に瞳を輝かせて、何か宝物を見せているかのような、重大な発見があったのを見せびらかす子供のような表情にそれ以上は何も言えなくなる。






「俺さ、鳥になりたいって思った事があったんだ・・・だけど」

そこで一拍置く鎖白。

此方から掠め見たその瞳は哀しいくらい綺麗で。儚く寂しげな。

「だけど、それは孤独の中一人で飛び続けるって事になるのかなって。ホラ、俺ってどう考えても集団行動とか苦手っぽいじゃん?」

確かに、と思う。鎖白なら集団で固まり飛ぶ鳥の大群よりも、一羽孤高に飛ぶ鳥の方が似合っている気がした。

「そんな時、この空をもう一度見た。したらさ、ココを飛んでる限り俺は自由なんかじゃナイ、ひとりじゃないって思った」




酷く嬉しそうに笑う鎖白。ソレハ、何故?

自由を望む君なのに、自由なんかじゃないと、そんな嬉しそうな顔で。

「銀樹に、空というこのデッカイ鳥籠に、俺はどんな事があっても逃げ出せない」




それ、は。




「ねぇ、銀樹。俺を銀樹の物に、して?」

「はぁ!?」

「いいねー、その反応!やっぱタイチョーはこうでなきゃ!」

驚いて思わず大声を上げた銀樹の反応を見て、腹を抱えて大袈裟に笑う鎖白をねめつけてやる。

「お前がいきなり突飛な事を言うからだろうが」

「俺がフラフラどっか行きそうって言ったのはそっちでしょー?」

そんな事言っただろうか?記憶を探ると、そんな事もあったかもしれないと思った。

この救世主は、まるで風船かシャボン玉のようで、放っておくとそのまま消えてしまいそうだから。

そのいつもの印象だけでなく、本当に、儚く溶けて消えてしまいそうな事すらあったから。




「だからー、この空のね、鍵を銀樹にあげる」




そう、空を背にして、翼のように両手を広げて微笑った鎖白、が。

本当に、本当に綺麗で。この世のものとも思えぬ程に綺麗過ぎて。

この世界から消えてしまうのではないか、と。

お前は玄冬が綺麗過ぎてこの世界に合わなくて消えてしまったのだと言ったが、それはお前の事なんじゃないのか?

玄冬はお前に殺されて、確かに消えた。だが、救世主たるお前はこの先もずっと、この罪に穢れた世界で生き続けなければならなくて。

お前は、これからも。

きっと、その笑顔の裏で哀しみの雫を零し続けるのだろうな。














「今日は隊長の誕生日でしょ?」

「そうだった、か・・・?」

あはは、もうボケちゃったの?と鎖白はケラケラと笑う。

鎖白の先程の微笑にばかり見とれ、己の考えに没頭していた銀樹は、その笑い声にようやく我に返った。

そうだ。鎖白は先程、己に何を言った?

鎖白の悪戯な言葉遊びも、その中に隠された本当も。

誤魔化されてばかりだけれど、そのからかうような言葉だって本当の君の言葉だって、知ってる。

全てが頭の中で纏まって。






もう、夕暮れの時刻だっただろうか?銀樹の顔が赤く染まっていく。

「鎖白・・・!」

「わっ!」

その意味に気づいた時には。気紛れなピンク色の子猫を腕の中にしっかりと抱きしめていた。

このフラフラしている奴を、自分だけのものにしたいと思ったのは何時ごろからだっただろう。




「        」




耳元に囁くと、目を見開いた鎖白という物珍しいものが拝め、思わず笑いを漏らす。

いつもは楽しげに細めているその吸い込まれそうに神秘的な深紅の瞳は、驚いているからか瞳孔が開いていつもよりも大きくなり。

光がキラキラと反射し、本当に吸い込まれそうだ。






「俺も、銀樹のこと、だいすき」




幼い子供のように舌足らずな。

返答になっているのかいないのか、はぐらかすのは鎖白が得意とするもので。




けれど。

ゆっくりと柔らかく細められた瞳は。

とても、とても綺麗で、そのまま空気に溶けてしまいそうな。

今が春で良かったと心底思った。もし、あの白の季節だとしたなら、その綺麗な紅は、きっと舞い散ってしまうから。

いつもの微笑に似ているようで、誰にも、多分俺しか見ないだろう笑顔。

自惚れでも何でもいい。お前が、俺にその笑顔を向けてくれるなら。




そう、銀樹は思い、きつく鎖白を抱きしめる。




















お前の空が、俺の鳥カゴ。




だから、ぎゅっとして。

ずっと、離さないで。




ずっと、ずっと――――















この空の青さに、白を閉じ込めて













END









何だかこういうのを書くとどれも似てるなぁとつくづく。新快の空モチーフにしたやつの隊救verみたい な・・・!