銀朱は、鎖白を幼い頃から見てきたわけではないから、鎖白の事を全てわかる、なんて事は不可能だ。
ずっと一緒だったとしても、鎖白のような人物を理解するだなんて到底困難だと思われるのに。
そんな銀朱に、鎖白は何言ってるんだ?と、目をまん丸に見開いて驚いて。
その様子が幼き日の無邪気な花白の驚いた表情にそっくりで、思わず笑ってしまう。
しかし、次いだ言葉に。
自分の方こそ驚愕に目を見開かなければならなくなった。
「銀樹は、俺の事全部わかっちゃうじゃないか」
聞き間違いか、とも思った。
人の名前を間違えるなと説教でもしてやろうかという考えが頭に浮かんだが、もし、もし鎖白が。
ほんとうに、その名の人物と、銀朱を混同しているのだとしたら。
最初は、ただ、煩い奴だなと思っていた。
しかし、ふと見ると。
一人で佇むその姿のなんと儚い事か。
もしかしたら、鎖白は一人で居るのが寂しくて、怖くて。
だからうるさく纏わりついてくるのかもしれないと考えを改めた。
いつの間にかスルリと自分の中に居ついていた、存在。
それはどんどんと大きくなっていって。
そう、今更、ここから逃げるだなんて――――。
「銀樹・・・」
愛おしそうに、聞き覚えの無い名で己を呼ぶ鎖白は、その存在を確かめようと此方に両の手を伸ばす。
その病的なまでに白く細い腕は、空をきった。
「鎖白!」
崩れ落ちるその華奢な身体。
落ちていく瞬間。はらり、と広がった桜を彷彿とさせる柔らかなそれが、こんな時だというのに綺麗だと感じた。
支えると、微かに、しかし確かに感じる重みに、ほっとする。
鎖白は、此処で生きているのだと。
顔を覗き込めば、顔を覆いかけているその淡い桃色の絹糸のような髪の合間から、ルビーと見紛う程の紅く紅く人を惹き付ける鳶色の瞳が覗く。
そして、言うのだ。
その名を持つ者ではない、銀朱に。
「銀樹」、と。
その桜色の小さな口から零れる言葉に、銀朱がどれほど嫉妬しているかも知らずに。
いっそ、本物の桜のように、散らせてしまおうかと思ってしまう程、狂おしい、この想いに気づく。
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