まわる、まわる。

まわってゆく、おと。

いつまで、続いて。

いつまで。





それは、紡いでいてくれるのですか?











― MayBe Blue ―













カラカラカラカラ。 車輪のまわる音。

草原が続く、道。

それを、二人乗りの自転車が、行く。

部活帰りの学生のようで、スポーツバックがふたつ、前籠に載せられ。

一人は肩に、中にラケットが入っているだろうラケットカバーをかけているという事はテニス部員であろうか。

其れを持っていない方の少年は、爽やかな短い黒髪の、いかにもスポーツマンといった風貌だった。

・・・多少、地味な印象ではあるが。

対照的に少々目立つ印象の少年が、ラケットを持っている先程の少年であった。

二人乗りの原因となっている、後ろに危なっかしくも立って乗っているその少年は、鮮やかなオレンジ色の髪を靡かせていた。

夕暮れ時の、赤く紅くあかく染まる空と街中に、その橙は、とても、きれいだった。

少し癖のある、だが愛嬌のある顔立ちはいつも笑っているように見えて、今もその口元を笑みの形にしていた。

あ、と。笑みの形から、ゆるく口を動かしたかと思うと、今度ははっきりとその名を紡ぐ為に大きくその唇を動かす。



「南」


南と呼ばれた黒髪の少年は、完全に振り返ってしまうと危ないとでも思ったのか、チラッと橙色の髪を目の端に映した。

いつも以上に淡く橙に透ける少年の髪と、溶けそうな笑顔に眩しそうに目を細めて。





「千石・・・今度は何だ?」


ハァ・・・と溜息を吐くようにして、度々この友人に巻き込まれた事による災難を思い起こしながらそう問いかける。 対して、橙色の髪をした少年――――千石は、ニンッと無邪気な笑みを浮かべてスッと指を上げた。

それは、遥か上空を指差していて。


「流れ星、流れ星だよっ!南、ちょっと止めてっ」


「はぁ!?おい、何するつもりなんだ?」


回るタイヤの速度が遅くなるのを見計らい、てやっと飛び降りる千石に、またコイツは何をやらかそうってんだ?と、心配げに見遣る南は、皆に千石の子守役と見なされても仕方がない事なのかもしれない。


「南も早く早くぅ〜っ!」


此方への合図のつもりなのか手を大きく振り、前を見ずに川原へと続く草原を今にも駆け下りようとしている様は、非常に危なっかしい。

ハラハラしながら、急いでストッパーをかけていると、前籠に積んでいたふたつのスポーツバックから、カランという音がした。

思えばその鞄は少々特殊な形をしており、普通の鞄の前にもう一つカバーのようなものがついているような形状となっていた。

そこに、ラケットが2本づつ、ささっている。

それは、2つの鞄、それぞれ両方ともにいえる事であり。

ということは、何かのスポーツをやっていると思われた黒髪の少年はおそらく、やはり部活に入っており。

そして其れは、何かに打ち込むという事を一見知らなそうな気紛れな橙色の髪をした少年、千石と同じ、テニスであったようだ。


自転車を停めている間にも千石は駆けて行ってしまう。





「おい、そんな走ったらこけ・・・ああ、だから・・・ったく」


言わんこっちゃない、と。南は、ズベシャッ!と見事に転んだ千石の手を掴み、引っ張り起こそうとする。

ふれた温かさに、思わず笑みが零れる。




「お、見ろよ。千石、流れ星大量だぞ」


その声に、ハッとして上空を見上げると。


「うっわぁ〜、スゴイスゴイッ!!ねぇねぇ、南」


「ああ、お前のいつも言ってる、ラッキーって奴かもな」


俺の言葉の後半を掻っ攫って言った。

・・・地味ーズの癖に。




なんで、こんなに。




「・・・格好良いんだよ、ちくしょー」



「何か言ったか?千石」



ぽつり。呟いた言葉は余りにも小さく、傍らに居た南には聞こえなかったようで、ほっとする。


馬鹿みたいだ、と思う。

同級生の男に、こんなにもドキドキするだなんて。

しかも、とんでもなく顔の整った白馬の王子のような奴でもなく、大金持ちや優雅な立ち振る舞いも何も、とにかくドキドキさせられるようなものが何もない筈の。

ただの、平凡な、でもとても、やさしい、ひと。






すっと上空を見上げる。


それは、照れた表情を相手に見せたくなかったからもあったかもしれなかった。

いつになく、決意した瞳をして。

ああ、テニスをしている時にもそんな表情しろってまた誰かさんに怒られそうだな、なんて思いながら。





「ずっと、一緒に、居させてください」



星に願いを。

こんなちっぱけな僕達だから。

せかいじゅうのひとたちぜんぶをしあわせにだなんて、そんな大それた事願いません。

願えない僕をけして許さなくてもいいです。


だから。


せめて、せめて、ねぇ。





相手のしあわせだけを願えない僕はとても愚かで、何故かそんな自分が愛おしく感じて仕方がないんだ。






「・・・バーカ。この心配性。
お前が、やっぱ別れよっか、テヘvとか言わない限り、んな事ないと思うけどな」



「そんな事言わないよ!」


くしゃり、と橙色の癖っ毛の髪を掻き混ぜた掌を払いのけながら、ああ、せっかくセットしてあったのに〜、と、ブツブツと文句を言ってみる。







「そか、なら安心だ」




ふいうちだった。




ああ、もう!と、セットし直して、顔を上げた瞬間。

目の前に、突然飛び込んできた、それ。

地味なのに、地味の癖に、いや、地味だからこそ。

地味に整った男前な顔が、目の前にあって。


それが、いつも怒ったり困ったりばかりしているようなそれが。







何かを、愛おしむような、そんな笑顔をしていたのだから。




「この地味!地味タラシ!火事場の馬鹿地味!ジミナミ!」


「地味は余計だろ!?」



ツッコむトコはソコなんだ・・・と思いながら千石は、俺ってそんなに地味かなと気にし始めた傍らの少年を見つめ、ふっと口元を緩ませる。


ゆるく、その琥珀色の瞳は。


ゆらゆら揺れて。


「南、すきだよ」





「・・・ああ、俺も。



好き、だ。千石」





そっと、耳元に囁かれた言葉は、





なんて





なんて、甘い蜜のような





くすぐったさに微笑んで。草むらに置いた君の掌に、


俺の指先を絡めたら、君も笑い返してくれた。











なぁ、南。





俺達は子供で、ふたりで並んで手を繋いでいられたらいいなって言って笑い合っても。


どうしたって、ふたりで生きていくことなんて出来なくて。









『いっしょに、いようね。



        ・・・今、だけでも。』













そんな、ゆめものがたり。

















<END>