ある日、女性陣は目撃してしまった。
快斗が大人の男の人と、仲良く手を繋いで歩いているところを・・・!
―eyewitness―
「だぁぁ、も〜っ。新一君がちゃんと快斗君を掴まえて置かないからこーんな事になるのよっ、そこんとこわかってる!?」
キィィーっと、上品そうなハンカチを噛み締める園子。
「おまえらの見間違いじゃねーのか?」
「本当よ!」
言い争う園子と新一に、傍で読書をしていた哀が口を挟む。
「なんなら・・・自分の目で確かめてみればいいんじゃないの?」
新一の襟首を持って締め上げていた園子の動きが、ピタッと止まる。
「それよ!それだわ!」
と、いうわけで、本日はお日柄も良く、女の子達+新一は『いたいけな快斗がどこぞのオヤジと・・・!?』疑惑を晴らす為に、快斗追跡隊を遂行していた。
「だりぃー、何で俺がこんな事しなけりゃなんねーんだよ」
「新一、快斗君が心配じゃないの?」
「あぁ?」
「だって快斗君って、お父さんが本当に大好きじゃない。だから・・・もしかして、と思うの」
心配そうにそういう蘭に、新一は、うっと詰まった。
(た、確かに・・・)
「あっ、居たわ!あそこよっ」
「園子さん、もう少し静かにしないと黒羽君に気付かれるわよ・・・」
大声を上げてそちらを指差す園子に、哀がそう指摘する。
「ま、まぁ確かにそうね・・・ホラ新一君!追跡よ追跡!皆も早くっ」
そこには果たして、快斗は居た。
買い物を丁度終えた所なのか、重そうな荷物をその細く綺麗な腕にぶら提げて。
その光景は、それを見た周りの者が思わず、その荷物を持ってやりたいと思ってしまうくらいに映るのだが、これでも鍛えている快斗、しっかりとした足取りで人々の隙間をするりと縫うように軽やかに歩き去って行く。
一緒にいる者は、取り立てて見当たらない。
『なんだ・・・快斗のヤツ、一人じゃーか』
ほっと息を吐く新一。
だが、次の瞬間。
一台の車が快斗の傍につけ、その細い腕を引いて中へ連れ込み、一瞬で連れ去ってしまったのだ。
「誘拐・・・?」
ぼそり、と呟く哀に、新一の顔は青褪めていく。
「早く快斗のお父さんに知らせないと・・・っ」
青子は泣きそうな顔で、だがすぐに携帯を取り出し、盗一に電話をかける。
「どうしよう・・・こんな事してないで、ふつうに快斗君を遊びに誘って、皆で一緒に行動してたらこんな事には・・・」
「ぐちゃぐちゃ言ってたって何にも変わらないだろ」
段々落ち着きを取り戻した新一は、ふと、引っ掛かるものを感じた。
あの時、何故快斗は抵抗しなかったのか。
そんな暇はなかったのかもしれないが――――いや、そもそも快斗が何もなくて、あんな簡単に連れ去られるだろうか?
仮にも現怪盗キッドの正体である快斗が・・・?
「聞いて聞いてー、快斗ね、今お家に向かってるとこなんだって」
「・・・は?」
携帯から耳を離した青子が、そう笑顔で言うのに、新一が間抜けな返答を返してしまったのも無理はあるまい。
「だからー、荷物が多くなったから、優作さんって人・・・工藤君のお父さん?に、車で家まで送ってって貰ってるんだってー」
にこっと笑う青子に、他の皆が脱力した。
しかし只一人、哀だけはほくそ笑んでいた。
哀にはわかっていたのだ。だが、その方が盛り上がるんじゃないかしら?と黙って傍観・・・否、むしろ新一をけしかけるような一言をボソッと吐いたりまでしたのだった。
いつも黒羽君が、事件の度に工藤君を心配する気持ちが少しはわかったかしらね、探偵さん?
クスクス・・・と笑う哀の微笑は、小悪魔のものに少しだけ、母のような優しさが込められたものだった。
「あはは、俺が誘拐ー?そんなんされるワケないじゃーん」
場所は移って黒羽邸。
皆揃ってあの後、ここに集まったのだった。
疲れきった様子の新一に経緯を聞いた、快斗の笑い声が家中に響き渡る。
「こんのクソ親父、どういうつもりなんだよ!」
「何がだ?」
すぐに気付かなかった事が悔しいのか恥ずかしいのか、父親に詰め寄る新一。
「なんでふつーに車に乗せずに、あんな誘拐もどきで連れ去る必要があったんだ?」
「ああ、やはり快斗君を迎えに行くわけだからパフォーマンスが必要かと思ってね。いつも普通に送り迎えじゃ、快斗君もマンネリするだろう?」
にこり、と喰えない笑みを浮かべる優作に、新一は、怒りの度数でもあるのならばそれが上がりまくったのを感じた。
「しねーよ!・・・つか、いつも普通に送り迎えしてるのか?快斗の。いつの間に知り合いだったんだよ、オメーら」
つまり・・・あの援交もどきだと女性陣が勘違いした相手は、この男だったという事だろう。
それはともかく。
新一の今、頭を占めている事はただ一つ。
自分の父親なんぞが、快斗に自分の与り知らぬところで関わっていたのが面白くないのだった。
快斗に対してのみ、独占欲が有り余って仕方がない男、工藤新一!
「それにしても快斗君は可愛いから、本当に人攫いに遭いそうだな。盗一、気をつけてやってくれよ?」
「いやー、実はよくあるんだ。快斗はこの通り人懐っこいだろう?
それにこの大の甘い物好きが過ぎて、お菓子をあげると言われるとついていってしまうんだよ。
だから声を掛けられたら嬉しそうについていって、そのまま攫われそうになったりね」
だから心配で心配で・・・と嘆く盗一に、優作は、分かるぞ、うんうんと頷きつつ、そうか、やはり甘い物で釣るのは正解だったなと自分の目の付け所に感心している。
さらには
「その作戦で今度快斗君を工藤邸にお招きしてみようか」
などと抜かす優作に、新一がついに切れた。
「てか、攫われそうになった事あったのかよ、バ快斗!
親父の友人の人、ちゃんと快斗の首に縄でもつけて餌やっとけ!
つーか親父も快斗を攫う目論見立てんな!!しかもそれ正解じゃねーーーっ。お前は小説家の癖に悪党か!」
「あはは、新一ってばお笑いのツッコミ人みたいだよー?ちなみに新一は探偵の癖に悪党みたいな眼つきしてるよな」
「うっせぇ!よけーなお世話だ、バーロォ」
ちょっぴり傷つく新一に、さらにオヤジーズからトドメの一撃。
「新一、お前は快斗君をペットにしたいなどという願望があるのかい?全く、我が子ながら恐ろしいな」
「まぁまぁ、優作。こんなに快斗が可愛いのだから仕方の無い事だ。だが新一君、可愛い快斗の首に痕でもついたら可哀想だろう?せめて首輪にしてやってくれないか?」
この二人の言動は、どこまでが・・・いや、全てが戯れなのだろうか。
「えーーーっ!」
「新一ってば・・・」
「黒羽君、君は騙されている!この白馬探が今すぐにキミを助けるから待っていてくれたまえ」
居たのか、白馬。
「黒羽くーん、こんな奴ふっちゃいなよ!」
「いやん、優しくし・て・ネv・・・てか、いつの間に居たの白馬、お前?」
「お前らなぁ・・・」
面白がってさらに茶化す周囲の面々、特に最後の快斗に脱力する新一。
この親父二人組+快斗に、さらに女の子達(+白馬)を組み合わせれば、もう、収集はつかない事は既に分かりきった事だった。
合掌。
<END>