快斗君のお家ってお父さん居ないんだってー。


えー、かわいそう〜。







小学生の無邪気さ故の、ピカピカと光りいっそ潔いくらいに先の尖った其れは、少年のまだ幼く柔らかいココロを突き刺した。











『 Wanna be White 』―1―
















正直、小学生にして大学の試験問題も優に解けるだろう快斗にとって、小学校など行く必要は無かった。


ただ、義務教育という名のソレに従っているだけ。






いや、それダケじゃないかな――――



快斗は、思わずそこで顔を綻ばせた。







父さんが言っていたから。



学校で学ぶ事は必ずしも授業で習うようなものばかりではない。



沢山の人に出会って、こういう人も居るのか、と色々な心に触れていくのも大切な勉強なのだよ、と。







けれど、その行為が今は痛い。痛くて痛くてどうにかなってしまいそうだ。



同情の眼差しを向けてくる者、好奇の目を向けてくる者。――――無邪気に、傷を抉る者。



特に最悪だったのが、クラスでも人気の女の子が快斗に、同情に滲ませ曰く色目のようなものを使った時だ。



その子の事を好いている少年達が、それを良く思う筈もなく。



それでも持ち前の快斗の機転と、快斗自身の人気でその場は乗り切ったが、これからの事を思って快斗は憂鬱になる。















3時間目と4時間目の間の放課。いつも一緒にいる青子は、先生に手伝いを頼まれて今この教室には居ない。


いつもは煩わしいお節介な幼馴染だと口では言っているものの、こうして居ないとやはり淋しいものである。



それに快斗は、心の傷が回復して来ていると言っても、まだ全然其れは塞がってはいないのだ。


つるんでいた奴らと騒ぐ気も起きず、重度の人間不信に陥っている快斗にとって、学校では青子だけが傍に居て安心出来る存在だった。



普段は学校の中でも最も煩い快斗も、これには暇を持て余し、静かにしている事にして、不貞寝する事に決めた。







そんな快斗に、あの時の少女が近寄ってきて、声を掛けてきた。







「ねぇ、快斗くん。明日お父さんがお仕事お休みなの。だから一緒に遊ぼうよ。


あたしのお父さんも快斗くんの事気に入ってるの。


あ、そうだ!あたし良い事思いついちゃった!


あたし達が結婚すれば快斗君にも新しいお父さん出来るよ!」






さも名案だとでも言うように、満面の笑みで笑いかける少女を目の前にして、快斗の目の前は真白に染まった。







――――嗚呼。何を言っているんだろう。






俺にとって、俺の父さんはあの人だけ。



俺にマジックを、広い知識を、人との付き合い方を、



何より、この腕から零れる程のたくさんの愛をくれた・・・黒羽盗一、その人だけだというのに。







「バッカじゃねーの。こいつの父親ってヒトゴロシらしーぜ。マジック失敗して沢山人巻き込んだんだってよ。



ヒトゴロシの親の子供なんだから、こいつも何すっかわかんねーじゃん。



そんな奴と結婚なんてしてみろよ。お先真っ暗・・・」














ガシャン!







響いた音に、教室中が静まり返った。



キラキラと、光に反射して飛び散っていく硝子の破片。



快斗の手は、窓ガラスの破片で切ったのか真っ赤に染まっていた。










「何事ですか!」



「快斗、どうしたの!?」



開いていた教室の前の扉から先生と青子が入って来て、驚いた声を上げるのも気にせず、快斗はその二人の傍をすり抜けて行った。







「ねぇ、快斗どうしちゃったの?皆答えてよ!」



必死に訴えかける青子に、おずおずと少女が答えた。



「あのね、あたしがお父さんが明日お休みだから一緒に遊ぼうって・・・そしたら」



「雪久君が快斗君のお父さんのことヒトゴロシだって言ったの」


「あれは酷いよねー・・・」


「人殺しをした親の子供がそうなるなんて可能性はほとんど有りませんよ」


「そもそも、快斗の親父のマジックショーで怪我人は出たけどさぁ・・・」



続々と周りの子達が非難の声を上げる。







「ちょっ、ちょっと待てよお前ら!加藤なんかも、黒羽の事気に食わねーって言ってただろ?」



「あー、そりゃ奈々ちゃん取られそうになったらさー。でも、俺らやっぱ、快斗の方が大事だし好きなんだよな」



なー。と、クラスの男子達。



呆気に取られているその少年に向かって青子は涙目で叫んだ。



「快斗のこと苛めないで!快斗は・・・強いけど、ほんとうはすごく弱いの。なのに、青子やおばさんの前だと強がっちゃうの。


頼って欲しいのに、なのに快斗はいつも一人で何でもやろうとするの。


だから、だから・・・そんな快斗にね、そんなこと言うと快斗が壊れちゃうかもしれ、な・・・」



うぇええんと盛大に泣き始める青子に、焦ったその少年は慰めようとワタワタした。



少年も別段悪気が悪かったわけではないのだろう。子供ながらの、嫉妬も併せて悪ふざけのように口が滑ったようなものだった。






しかし、それは深く深く、快斗のココロの傷を抉ったのだった。














(――――なんっか、青子の泣き声が聞こえるな。)



人通りが多かった廊下はもう終わり、自分の足音しか聞こえない廊下を一人、快斗は駆けていた。



(あいつは泣き虫だかんなー。俺の事なんて気にかけなくてもいいのにお節介焼きだし・・・。)






それにしても、窓ガラスを割ってしまったのは失敗だった。これでは母に迷惑を掛けてしまう。



こんな時にでも冷静な自分が残っている事が嫌でしょうがなく。


それにどうせそんな自分が残っているのなら母に迷惑を掛けないよう、あの場で踏みとどまれば良かったのに。






淡く優しい光が降り注ぐ廊下を駆けながら、快斗は自嘲気味に笑った。






それは何処か、泣いているように見えた――――















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